分析化学
Print ISSN : 0525-1931
分析化学総説
非弾性電子トンネル分光法
―電子のトンネル現象を用いる分光法―
肥後 盛秀
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2001 年 50 巻 10 号 p. 637-678

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抄録

非弾性電子トンネル分光法 (IETS) の原理と特徴, 実験方法と測定装置及び各種分野における研究成果を総説した. この分光法は, 金属/絶縁層/金属 (MIM) 構造の接合に流れるトンネル電流を極低温において検出し解析することによって, 絶縁層とその表面に存在する化学種の回転・振動及び電子励起スペクトルを測定する方法である. IETSは高感度な表面分析法であり, 単分子層以下の表面吸着種や数ナノメートルの絶縁層薄膜の詳細な振動スペクトルの測定ができる. MIM構造の接合は金属酸化物触媒や電子素子あるいはセンサーなどのモデルシステムである. アルミナとマグネシアの表面状態, これらの金属酸化物上における有機酸, アルコール, フェノール, エステル, アミン, アミドやニトリルなどの吸着種の状態分析と表面反応, 絶縁層上の金属を通しての分子の注入, アルミナとマグネシアに担持された各種遷移金属の触媒作用, シリコンやゲルマニウムとその酸化物の蒸着薄膜の状態分析, 金属錯体や多環式化合物の電子遷移と共鳴現象, 走査トンネル顕微鏡との組み合わせによる新しい計測法などの分野における研究成果を評論した.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry 2001
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