陸水学雑誌
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各国における底泥質基準の現況
G. Allen Burton Jr.
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2004 年 65 巻 2 号 p. 117-134

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抄録

汚染した底泥の処理に関する規制策定関係者の参考に供するため,過去20年間に多くの底泥質ガイドラインが考えられてきた。従来,底泥の汚染状態は,個々の化合物の総化学物質濃度を評価し,バックグラウンド値や参照値と比較することによって決められてきた。1980年代から今日に至るまで,底泥質ガイドラインが細分化される過程で,生物学的な影響についても考慮されるようになってきた。こうした試みは,底泥の汚染状態と毒性応答との関連性を明確にするための反復を原則とした経験則的手法と,平衡分配(たとえば,有機炭素や酸揮発性硫化物に基づく方法)を用いて生物利用能における違いを説明しようとする理論的手法とに分類することができる。
このようなガイドラインの中には,いくつかの国の各種規制担当機関によって採用され,環境修復活動の達成目標として用いられたり,また汚染地域の優先処理順位を決めるために用いられたりしているものもある。初期の底泥質ガイドラインは,総化学濃度を参照試料あるいはバックグラウンド値と比較するもので,底泥汚染物質が生態系に及ぼしうる影響についてはほとんど考慮されていなかった。したがって,個々の化学物質のための底泥質ガイドラインは,現地底泥の化学的特性と,現地や実験室で得られる生物学的な影響データに基づいて開発されてきた。底泥質ガイドラインの中には,汚染が進んだ状態にある特定の場所を示す上で比較的良い指標だとされているものもあるが,こうしたガイドラインの中にもいくつかの制約がある。つまり,
・偽陽性予測や偽陰性予測が,多くの化学物質において20-30%の割合で頻繁に起きており,場合によってはその割合がさらに高いこともある。
・これらのガイドラインは,化学物質ごとに特定のものであり,化学物質の混合が起こっている場合の因果関係を確定するものではない。
・平衡理論に基づいたガイドラインは,曝露過程のひとつである底泥摂取について考慮したものではない。
・これらのガイドラインは時空間的変動性を考察していないので,動的に変化している底泥や粒径の大きな底泥には適用できないと思われる。
・最後に,底泥の化学的性質もしくは生物利用能(底生動物による利用など)は,サンプリングやその後の保存処理過程によって容易に変化するので,計測値に基づいた底泥質のガイドラインは,現地の状況を反映していないかもしれない。
どのような評価法も有益な情報を与えるものだが,例えば底泥質ガイドラインや,実験室における毒性および生物濃縮底生生物指標などといったものは,特定の現地曝露影響データが利用できない場合には誤った解釈をされてしまうことがある。底泥質ガイドラインは,「スクリーニング(選別)」手法あるいは「実証主義的」アプローチにのみ限定して用いられるべきである。底泥を含む水圏生態系は,統合的なアプローチを用いて,複数の構成要素(例えば,底泥質ガイドラインに関連した生息環境要素,流体力学的要素,生物相に係わる要素,毒性および物理化学的要素など)を評価する「全体論的な」方法において評価する必要がある。

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