2016 年 77 巻 7 号 p. 1642-1649
症例は76歳,男性.つかえ感を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で食道癌と診断され当科紹介となった.術前3D-CT画像の分析により,内臓逆位を伴わないEdwards 分類III B型の大動脈弓であることが判明した.Ut,cT3N0M0,cStage IIの食道扁平上皮癌の診断で左開胸開腹食道亜全摘術,胸骨後胃管再建を施行した.手術所見では,下行大動脈の起始部にはKommerell憩室が存在し,これより左鎖骨下動脈が分枝していた.また,憩室から左肺動脈へ向かう動脈管を認め,左反回神経が動脈管を反回していることが確認できた.しかし,左反回神経への腫瘍浸潤が疑われたため合併切除し,後の頸部操作で左反回神経は迷走神経と吻合を行った.右側大動脈弓を伴う食道癌手術は,その解剖学的特殊性から術前に3D-CTなどで詳細な解剖学的検討を行うことが重要である.