日本耳鼻咽喉科学会会報
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原著
甲状腺癌リンパ節転移診断における穿刺吸引内容物中サイログロブリン濃度測定 (FNA-Tg) の有用性と限界
坂本 耕二今西 順久冨田 俊樹小澤 宏之佐藤 陽一郎稲垣 洋三山田 浩之伊藤 文展鈴木 法臣甲能 武幸斉藤 真野口 勝西山 崇経中村 伸太郎藤田 紘子渡部 高久新田 清一小川 郁
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2016 年 119 巻 5 号 p. 721-726

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抄録

 背景: 臨床所見で甲状腺癌転移が疑われた際には穿刺吸引細胞診 (以下 FNAC) が行われるが, 嚢胞性転移など細胞成分の少ない病変は偽陰性となることがある. 穿刺吸引内容物中サイログロブリン濃度測定 (以下 FNA-Tg) は, 甲状腺外の病変に対し甲状腺濾胞細胞特異的なサイログロブリンを測定するもので, 高値の場合は甲状腺癌転移を示唆することから診断精度の向上が期待できる.
 対象と方法: 2008年から4年間に甲状腺癌の頸部転移を疑い FNAC および FNA-Tg を行い, 手術にて病理組織診断が確定した43例49病変を対象として, 両検査の結果と病理診断結果とを比較した.
 結果: 49病変中47病変が甲状腺癌の転移で, その感度は FNAC が57.4% (27/47例), FNA-Tg が76.6% (36/47例), 両者を合わせると93.6% (44/47例) であった. FNAC の偽陽性として顎下腺癌の転移を, FNA-Tg の偽陽性として異所性甲状腺を1病変ずつ認めた. FNAC, FNA-Tg がともに陰性であった甲状腺癌転移 (両者の偽陰性) は3病変認められた.
 結語: FNAC は細胞の良悪を, FNA-Tg は甲状腺由来成分の有無を判定する点で各々優れており, 両者は相補的である. 両者の組み合わせにより甲状腺癌転移の診断精度を向上させることができる一方で, 偽陰性, 偽陽性となる病変も少なからず存在することを認識しておく必要がある.

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© 2016 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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