PLANT MORPHOLOGY
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利己的DNAの振る舞いと雌雄性
河野 重行
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2008 年 19and20 巻 1 号 p. 45-54

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抄録

理論と実験生物学の長年の挑戦にもかかわらず,生殖戦略として性がこんなにも一般的なのはなぜかという問はまだ十分説明されていない.本稿では,その回答の一部として,1)真正粘菌(Physarum polycephalum)のミトコンドリア線状プラスミド(mF),2)ヒラアオノリ(Ulva compressa)の配偶子の性的非対称性,3)黒穂菌(Microbotryum violaceum)によるヒロハノマンテマ(Silene latifolia)の雌雄性の撹乱について紹介する.ミトコンドリアは母性遺伝する.mFプラスミドは両親由来のミトコンドリアを融合することで,ミトコンドリアの母性遺伝に抗して父親由来のミトコンドリアから母親由来のミトコンドリアへ伝播することができる.これはバクテリアの接合プラスミドFを髣髴させる.mFやFのような利己的な分子共生体が引き起こした接合が最初の性だったのではないかと考えられている.接合や性的組換えは選択圧に対して優位にはたらく.この利己的DNAの分子共生体説は,性の起源に直接関与するだけでなく,性の進化の次の段階を理解するのにも重要な意味をもつだろう.本稿では,こうした性の起源と進化に関する新しいアイデアとして,ヒラアオノリの雌雄配偶子の眼点に対する接合装置の性的非対称性と,ヒロハノマンテマの性を撹乱する利己的共生菌M.violaceumについても,性と遺伝的アーキティクチャを交錯するものとして紹介したい.

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© 日本植物形態学会
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